「…知らない天井だ。」
徐々に開ける視界が薄灰の天井をとらえる。
腕を伸ばし空を掴むと、未だ明らかに覚醒しないままその見知らぬ無機質な空を眺めつづけていた。
ぼやけた視界に眼の渇きをおぼえると、腕を下ろしゆっくりと瞼を伏せた。
視覚が消えるとやけに他器官が無意識にも環境を拾う。
それに気付いてしまうとどうしても今度は意識してそれらを追ってしまう。
規則正しく刻む自分の鼓動と何処かで鳴るアナログ時計の秒針のリズムが少しずつずれていく。
血液の循環までこの身は感じ取れはしないが、打ち鳴らし続けるこの音が自分がまだ死んでいないことを告げる。
肌に触れる布の感触。動けば先ほどのリズムに衣擦れのソプラノパートが加えられる。
 何処かのベッドに寝かされている事はなんとなくわかった。衣擦れのソプラノが響く一瞬にスプリングの軋む鈍いバリトンまでもが歌ったからだ。
きめの細かなシーツはざらりとした感触を指に与え、それに少し落ちついた。
今度目が覚めたら堅いコンクリート打ち捨てられ雨ざらしになってるかと思っていたからだ。
自力でどこか身の休まる場所へ足を運んだ記憶はない。むしろ行くあてや気力すらなかったという方が正しいかもしれない。
 シーツの端を引っ張って体に巻き込み寝返りを打つ。肌の晒される首や腕にまでざらざらとした感触が伝わった。
纏わる白布に顔を埋めて肺に空気を満たした。少しの煙草臭さが同時に肺へと染み渡る。
このベッドの持ち主は愛煙家らしい。それも相当辛めのがお好みのようだ。
中学時代の結構人気のあった先生が同じ匂いを身に纏わせていた・・・そう、確かマルボロの赤箱だったと思う。
妙な親近感に身を震わせ軽く微笑んだ。
「眼、覚めたのか。」

                            to be continued...

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