「何も描かれていない未完成な絵。それがキャンパスだ。」と誰かが言っていた。
それだけで絵である、というわけだ。
しかし完成しているわけではなく、それから多くの人間が手を加えてゆき完成へと作り上げてゆく。
そういえば俺は今まで絵を完成させた事がない。
だって果てがないんだから。
それに絵の具なんかじゃあの澄んだ空は描けない。
『絵の具』って色が決められてるから。
どんなに色を混ぜたって、あの色はだせない。
俺の描きたい、俺の求める色は違うんだ。
だから、俺の絵は空であって空でない。
偽物の空なんだ。
俺の今の家族のような偽物の、空なんだ。

ギイッ――――
錆びたドアの蝶番が痛々しげに悲鳴をあげた。
「ただいま・・・・・・」
ようやく一日の学校の課程を終えた和馬が帰宅した。
 学校から和馬の家までそう遠くはない。
自転車で通っているのだがそれでも30分とかからない距離だろう。
 和馬の家はどこにでもあるような一戸建てで、少々年期の入ったといってもいいほどだがこざっぱりとした家だ。
外見の割には内装は綺麗になっていて温かさを感じさせる黄色を主体とした塗装を施している。
そんな家だが今は影を落としたようにひっそりとした灰色に包まれている。
家の中に人の気配はあるものの返事一つ返ってはこない。
そんな様子に動じることもなく、汚れた運動靴をいい加減に脱ぎ捨てると和馬は自室へと向かった。
 疲れきった体を重そうに引きずり階段を上ってゆくと正面に見える引き戸に手をかけた。
さして広くもない部屋に、ぽつんと点在している勉強机とベッド。
無造作に机に黒のデイバッグを放り投げるとそのままベッドへと身を投げ出した。
 彼の重さにベッドのスプリングがギィと小さく鳴いた。
唯一、彼の安らげる場所。
なにものにも縛られない自分だけの空間。


・・・・・・いつからだろう、ここがこんなに居心地がよくなったのは。
小さいころはあんなに一人になることを嫌がったのにな。
あぁ、そうか。みんながよそよそしくなった時だ。俺に対して。
それから、ここが唯一の安らぎになったんだ。



                            to be continued...

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